不動産売却では、必ずしも自身が所有する不動産を売却するとは限りません。
認知症になり、判断能力を失ってしまった親が持つ不動産を、その子どもが売却するというケースもあります。
今回は、認知症の親の不動産を売却する際のルールや、主な売却方法などについて解説します。
認知症の親の不動産は勝手に売却できない
認知症になってしまうと判断能力がなくなり、所有者自身が不動産売却を行うのは難しくなります。
かといって、その子どもであれば勝手に売却しても良いのかというと、そういうわけではありません。
なぜなら、親に判断能力がなければ、法的に有効な代理人を立てるために必要な同意確認が取れないからです。
つまり親が認知症であっても、不動産はあくまで親の所有物であるため、親の意思に沿った不動産売却が行われなければいけないということです。
認知症の親の不動産を売却する方法3選
認知症の親の不動産売却は、主に以下のいずれかの方法で行われます。
・成年後見制度を活用する
・家族信託を活用する
・親が亡くなった後に売却する
各項目について詳しく説明します。
成年後見制度を活用する
認知症の親の不動産を売却する方法としてもっとも一般的なのは、成年後見制度を活用する方法です。
成年後見制度は、認知症や知的障害などの理由で判断能力が十分でない方に代わり、成年後見人が契約を締結したり、財産の管理を行ったりする制度です。
ここでいう契約の締結には、不動産売却も含まれます。
また、すでに認知症によって親の判断能力が十分でなくなっている場合には、法定後見制度を活用します。
法定後見制度は、本人に代わってその子どもなどの申立人が家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人が選ばれます。
このとき法定後見人になれるのは、親族のほか弁護士や司法書士、社会福祉士や福祉関係の法人などが挙げられます。
未成年者や破産者、本人に対して訴訟をした者などについては、後見人にはなれません。
家族信託を活用する
家族信託は、不動産を所有する親が認知症になる前に、あらかじめ自身の財産を管理する権限を家族に与えておく制度です。
成年後見制度よりも自由度が高く、契約時に家庭裁判所が関与することはありません。
また不動産を所有する方が家族信託を利用することにより、信託財産の名義が受託者(財産を管理する家族)に置き換えられます。
そのため、受託者は親に代わって不動産を売却できます。
ただし家族信託も法律行為の一つと判断されるため、すでに親が認知症で判断能力を失っている場合は利用できません。
親が亡くなった後に売却する
認知症の親が亡くなった後、その子どもなどが不動産を相続すれば、子どもは不動産の正式な所有者になります。
こうなればもちろん、問題なく不動産売却の手続きを進められます。
ただし相続後に売却する場合は、事前に不動産の名義変更を済ませておく必要があります。
また相続人による不動産売却を円滑に進めるために、元々の所有者である親は早めに遺言書を作成しておくべきです。
認知症になる前に遺言書を作成し、売却を行う相続人や売却方法について指定しておけば、相続人はいたってスムーズに手続きを進められます。
不動産は、預貯金などと違って相続人同士での分割がしにくい財産です。
そのため、遺言書で換価分割を指示することは、相続人同士のトラブルを防止することにもつながります。
まとめ
高齢の親を持つ方は、親が認知症になった場合に備え、成年後見制度の手続きなどについてある程度把握しておくべきです。
また親は認知症になる前に、家族信託や遺言書の作成などにより、子どもの不動産売却を後押しすることが大切です。
もちろん、判断能力があるうちに不動産を売却し、老後は賃貸物件で過ごすという方法を選択しても問題ありません。